自律し、主体性のある子どもを育てるためにできること~進路選択を見据えて~

小学校、中学校、高等学校ごとに、教科等の目標や大まかな教育内容が定められている学習指導要領。平成29年度に10年ぶりの改訂があり、これまでの教育目標や育成する資質・能力が方向転換されていきます。この度の改訂で育成する資質・能力の一つに「学びに向かう力・人間性」が示され、「自律し、主体性のある子ども」をどう育てていくかが今後のポイントとなってくるでしょう。

そこで今回は、私のこれまでの教職の経験をもとに「進路選択を見据えた、自律し、主体性のある子どもを育てるためにできること」をご紹介します。また、近年話題となった書籍『「目的思考」で学びが変わる』(多田慎介著)を参考に千代田区麹町中学校の工藤勇一校長の実践も紹介します。

子どもたちにどう生きて欲しいか、そのためにどのような力を育むか

教育者として「教育の最終目標」の明確な考えがあるか

まず、子どもの教育に関わる全ての方にお聞きしたい。目の前の子どもたちの「今」ではなく「将来」をじっくりと考えたことがあるでしょうか。子どもたちが生きていく社会とはどのようなところで、その社会で子どもたちにどのように生きて欲しいと考えているでしょうか。急速な時代の変化のため、安易に自分の生きてきた時代と重ね合わせて考えることができないところに難しさがあります。

そして、私たちは何を最終目標として子どもたちに教育すべきなのでしょうか。これらの問いは本来、最初に語られるべき教育の目的や目標です。私の教職時代を振り返ると、忙しさのあまり教育の最終目標など考える余裕もなく、その時の思いつきに任せた一過性の教育をしていたと反省します。教育者として子どもの教育と真剣に向き合うならば、教育の最終目標を明確にし、その達成に向けて手段を選び、継続的に意図的に教育していくことが必要です。

また、「一過性の教育」というちりも積もれば山となります。毎日学校で無意識に語る言葉が、親として無意識に語る言葉が、子どもの人間形成にどう影響していくのか、一度立ち止まって考えたいものです。

考え

「教育の最終目標」から育む力を定める

私は教育の最終目標を「人生を幸せに生きていくための力を身につける」ことだと考えています。もちろん「幸せ」の具体的な定義は個々によって違います。ここではより普遍的な「幸せ」の定義をするとすれば、「自分が生きたいように生きること」がその一つと言えます。では、「自分が生きたいように生きる」にはどのような力が必要でしょうか。

それは、自分がどう生きていきたいかを主体性をもって考え、見つけ出す力、自律してその生き方を選択できる力、そしてそれを実現できる社会を創造していく力だと考えています。ポイントとなるのは「自律」、「主体性」であると言えます。

自律、主体性とは何か

これまでの話をまとめると、「将来子どもたちが幸せに生きていくには、主体性を身につけること、自律することが大切である」ということになります。

そもそも自律する、主体性があるとはどのような状態を指すのでしょうか。自律とは、「外部からの力にしばられないで、自分の立てた規範に従って行動すること」です。つまり、自分の意志をもって自ら定めたルールに従って行動を選択できる状態、その人自身で調整を行ったり問題を解決したりする状態を指します。

主体性は、「自分の意志や判断に基づき、責任を持って行動すること」です。自分の考えによって取るべき行動を選択し、それだけではなく自らの行動がもたらす結果にも責任を負うことができる状態のことを指します。

現に、平成29年度告示の新学習指導要領においては、育成する資質・能力の3つの柱の一つに「学びに向かう力・人間性等」が示されました。「学びに向かう力」とは「主体的に学習に取り組む態度」を含むものであり、自己の感情や行動を統制する能力すなわち自己統制能力や、自らの思考の過程等を客観的に捉える力を含めた「メタ認知」能力であると説明されています。

「自己の感情や行動を統制する能力すなわち自己統制能力」は「自律」とほぼ同義であると言えます。また、学習指導要領において「主体的」という言葉が多用されているのも印象的です。このように文部科学省としてもこれからの時代を生きていくために「自律し、主体性のある子どもを育てていく」ことが示されているのがわかります。

自律し、主体性のある子どもを育てるには

自律や主体性は、正解が提示されない環境下に置かれることで育まれます。なぜなら、正解があると人は自分で考え、判断するということをしなくなるからです。今の学校教育の「教師が正解をもっており、それを生徒がとりにいく」という構図は、自律し、主体性のある子どもが育ちにくい環境であると言わざるをえません。自律し、主体性のある子どもを育てるには、教育者側が教育観を問い直し、環境作りを工夫していく必要があります

自律し、主体性のある子どもを育てるためにできること

環境作りに必要となる、①基本的な教育観②学校や家庭においての環境づくりの工夫をご紹介します。

基本的な教育観

思考

1、裁量を十分に与える

一番大切になってくるのは、子どもに裁量を十分に与えることです。日本の教育は他国と比べ、管理的な傾向があると言われます。校則やルール、行事の内容、カリキュラムなど、学校生活のほとんどのものが教育者側が決めます。人は正しいとされるレールを敷かれると、自分自身で考えるということをしなくなります。全て教育者側が決めたものに従わせて学習させていく、生活させていくという教育から脱却する必要があると言えます。

2、信頼する

裁量を与えるとなると「本当に子どもだけでできるのか?」「まずやり方を教えてあげないと何もできないのでは?」と心配になる方も多いと思います。子どもを信頼して任せることができないのです。私たちはなぜ、そう考えてしまうのでしょうか。それは、日本の教育では「教育というのは先人が子どもに授けるもの」という考え方が主流だからです。

現に、学校教育でも学習塾でもその形がとられることが多いのが現状です。正しいとされるレールを敷かれると(こうした方がいいのでは?という声かけも)、自分自身で考える、判断するということをしなくなります。子どもが「主体的に自分自身で考える」ことを願うのであれば、子どもを信頼して任せることが大切になります。

3、時間がかかっても待つ

「もっといい方法があるのに」「手伝ってあげたら早いのに」という気持ちをぐっとこらえてひたすら待ちます。もちろんですが、子どもたちだけで取り組むということは多くの時間を要します。時間がかかってでも子どもたちだけで乗り越えるという過程にこそ意味があります。

4、何度も挑戦し、何度も失敗するのが当たり前である

教育者が「何度も挑戦し、何度も失敗するのが当たり前である」という心構えを持つことは重要です。「2 信頼する」にも関わりますが、「本当に子どもだけでできるのか?」という問いに答えるならば、それは必ずしもできるとは言えません。むしろ、失敗することの方が多いです。

さて、ここで問題となってくるのは失敗することはよくないことであるのか?ということです。私はそうは考えません。「失敗する」「上手くいかない」という経験はとても大切であり、それでもあきらめずに試行錯誤していく過程で子どもは自律し、主体性が育まれます。失敗を恐れるようになると子どもは積極的に挑戦をしなくなります。最終的には「自分でやってみよう」という主体性が削がれていきます。教育者側が失敗を恐れ、失敗をさせないようにする配慮のいきすぎた教育こそ避けなければなりません。

5、自己決定権とそれに伴う責任は子どもにある

「裁量を十分に与える」ということは、つまりは自己決定権があるということです。そして自己決定に伴い、発生するのは責任です。自分で決定したことについては、責任を追う必要があります。それは事前にきちんと子どもに伝えておく必要があります。

6、手本を行動で示す

当たり前ですが、自律していない教育者、主体性のない教育者に自律や主体性を説かれても「この先生が言うことを信じて挑戦してみよう」とはなりません。自律し、主体性のある生徒を育てたいのであれば、まずは自分がそうあるべきではないでしょうか

私自身ついこの間、教職を退き、新しい生き方を模索している最中です。自律し、主体性があれば、このような楽しい生き方もできる!ということを示していきたいと思っています。

7、いつでも一番の理解者であり、支援者である

 子どもが失敗して挫けそうになったり、途中で諦めて投げ出そうとしたり、教育者としてそんな場面に遭遇することは必ずあります。どんな時であってもどんな状況であっても暖かく見守り、一番の理解者であり支援者であってください。生徒にとっても管理的な教育の方が楽に決まっています。

管理的な教育であれば、先生や親の言うことを聞いてそれに従うだけでいいのですから。しかし、それでは自律もしないし、主体的になることもできません。「自分で考えずに誰かの言うことにしたがって生きる」ことでは、本当の意味での自由、楽しさ、幸せは得ることはできません。その苦労は今後のために大切な苦労であると伝えて、最後までサポートする存在であって欲しいと思います。

 学校や家庭では、具体的にどのような場面でどのようなことができるのでしょうか。私の経験と千代田区麹町中学校の実践をもとにご紹介します。

環境づくりの工夫(学校編)

学校

1、責任者は教員、経営するのは生徒の学級経営

最初に大枠の目的を必ず伝えます。私は「学級は社会の縮図と考え、みんなが学級でより快適に過ごせることを目的として様々な学級活動をしていく」ことを伝えていました。

係活動、掃除等の役割を企画から運営まで全て任せます。主体で動くのは生徒です。教員は支援者となり、生徒が活動の中で助けを求めて来た場合に支援をします。例えば、掲示係であれば「どのような目的で掲示をするのか」「どのような掲示を目指すのか」「どこに何を掲示するのか」「いつ張り替えるのか」等を全て自分たちで考えさせます。子どもたちが考える際に、これまでの先輩の活動を一つの案として紹介することは大いにすべきです。そのような型を真似することから新しい発想は生まれます。

2、権限と責任をもたせる生徒会

最初に大枠の目的を必ず伝えます。私は「学校は社会の縮図と考え、みんなが学校でより快適に過ごせることを目的として様々な生徒会活動をしていく」ことを伝えていました。

学級経営と同様で、企画から運営まで全て任せます。主体で動くのは生徒です。教員は支援者となり、生徒が活動の中で助けを求めてきた場合に支援をします。麹町中学校では『完全に生徒主導で体育祭の企画・運営を行なっている。企画・運営に携わったメンバーは「企画委員会」「実行委員会」「応援団」のメンバー。

「運動が得意な人が輝き、そうでない人も笑顔で参加できる体育祭」にするために、全校アンケートをとって実態調査をしたり、何度も議論を重ねたりして実現。応援団のエールや振り付けはネットの動画をたくさんみて真似して作り上げた。』企画メンバーが体育祭後に語った「答えも式も自分たちで考える感覚です」という感想が印象的でした。子どもたちが考える際に、これまでの先輩の活動を一つの案として紹介することは大いにすべきです。そのような型を真似することから新しい発想は生まれます。

3、学び方を教える授業

「自律し、主体性のある学習者」を目指すには、「学習内容を教える」だけの授業から「学習内容、そして学び方も教える」授業に転換していく必要があります。学び方とは「英語の単語はこのように覚えていったらよいか」「英作文でどの文法を使えばよいかわからなくなったらどう解決していくか」「どうやったら学習を継続していけるか」などです。

また「一斉授業」のスタイルから「学び合い」のスタイルに移行していくことも有効です。麹町中学校でも徐々に実践されている教育スタイルで、先生の説明を聞くという一方通行の授業ではなく、子ども同士でコミュニケーションをとりながら教え合うというものです。「これはどういう意味なのか」「わからない人にどこをどう教えると伝わるか」ということを考えながら、主体的に学びに向かうことができます。

4、自己決定の進路指導

子どもにとって最初の大きな自己決定となるのは、どの高校、大学に進学するか、はたまた就職するかという進路決定でしょう。私自身、担任として受験生をもったことがありますが、進路指導の際はこちらがあまり口を出しすぎないよう気をつけていました。もちろん、入試情報や客観的事実は伝えますが、生徒の人生ですから最終的には生徒自身が決定をするということが大切です。

教育者側は何を伝え、何を伝えないのかの線引きをあらかじめ考えておく必要があります。保護者も同様です。最後は子どもの決定を応援し、全力で背中を押すことができる存在でありたいですね。

・環境づくりの工夫(家庭編)

1、自分のことは自分でさせる

自律の第一歩は、「自分のことは自分でさせる」です。中学生、高校生にもなるとたいていのことは自分でできるようになります。しかし、気づかないうちにこちらがしてあげてしまっていることも多くあります。例えば、自分の部屋の片付け、食べ終わったら食器を洗い場まで持っていく、靴を並べる等です。小さなことでも自分のことは自分でする習慣をつけさせましょう。

2、家族の一員としての役割を与える

「自分のことは自分でする」ができるようになると、周囲に気を配ることができるようになります。そこで次に「役割」を与えます。家族の一員として与えられた役割を責任をもって果たしていくという経験は自律につながります。ここで気をつけたいのは「手伝い」ではないということです。一つの役割を信頼して任せ、しっかりと責任をもたせます。どのようなスケジュールでどのような手順で役割を果たすかという部分は裁量にするとなおよいでしょう。

3、管理者ではなく理解者、支援者になる

心構えの「7 いつでも一番の理解者であり、支援者である」でも述べましたが、挑戦する過程で失敗することが多々あります。挫けそうになったり、責任転嫁してしまうこともあると思います。家族として、何があっても受け止め、味方であってください。どんな時であってもどんな状況であっても暖かく見守り、時には叱咤激励し、一番の理解者で支援者であってください。

4、まずは「自分の意見を言う」ではなく「子どもの意見を聞く」へ

家族もこれまで自分自身も中学生高校生を経験した一人として、「もっとこうしたらよいのでは」とアドバイスをしたくなってしまいます。しかし、まずは子どもの意見を聞くということを大切にしましょう。気をつけたいのがどんな意見であっても否定をしないということです。その上で客観的事実やこちらのアドバイスを伝えるとよいでしょう。

まとめ

 私のこれまでの教職の経験と話題となっている書籍をもとに、「進路選択を見据えた、自律し、主体性のある生徒を育てるためにできること」をご紹介しました。生徒が今後、幸せな人生を送るために「自律し、主体性あるということ」はとても大切であると考えています。この記事が、今、皆さんの目の前にいる子どもたちが幸せな人生を送るための一助となれば幸いです。

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