- 「キャリア教育」は社会的・職業的自立のための活動
- 小中高ごとにキャリア教育の指針がある
- キャリア・パスポートでは対話的な指導が求められている
こんにちは!今回のテーマは、大事とは聞くけど意外と知らない「キャリア教育」。
文部科学省がどのような方針でキャリア教育を推進しているのかをシンプルにまとめてみました!
目次
まずは「キャリア教育」という言葉の定義から。文部科学省は中央教育審議会における答申を用いて、次のように定義しています。
一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育。
中央教育審議会「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)」(平成 23 年1月 31 日)
「キャリア教育」という文言が公的に登場し、その必要性が提唱されたのは約21年前。結構最近ですね!
同時に、審議会は以下2点も提言しています。
〇キャリア教育を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある。
〇キャリア教育の実施に当たっては家庭・地域と連携し、体験的な学習を重視するとともに、各学校ごとに目的を設定し、教育課程に位置付けて計画的に行う必要がある。
以上の答申を受け、キャリア教育に関する調査研究が進められ、この調査によって「日本は職業観・勤労観の育成が不可欠な時代を迎えているぞ!」ということが明らかに。
文部科学省は学校段階ごとの「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)」を示しました。
ただ、この枠組みはあくまでも例とされ、子どもたちそれぞれの実態を把握したうえでのキャリア教育が求められています。それを念頭に置きつつ、以下の3つのポイントでまとめられた、一応普遍性があるとされるプログラムの例を各学校段階ごとに少し見てみましょう。
①職業的(進路)発達の段階
②職業的(進路)発達課題〈小〜高等学校段階〉
進路・職業の選択能力及び将来の職業人として必要な資質の形成という点で、各発達段階において達成しておくべき課題。
③職業的(進路)発達にかかわる諸能力
4つの能力領域「人間関係形成能力」「情報活用能力」「将来設計能力」「意思決定能力」を枠組みの基本的な軸とした、各々の能力が育成されると期待される具体的な能力や態度。
小学校のキャリア教育
まず小学校におけるキャリア教育について。小学校は、職業的(進路)発達の段階において「進路の探索・選択にかかる基盤形成の時期」にあります。また、小学校の段階で達成しておきたい職業的(進路)発達課題として、
・自己及び他者への積極的関心の形成・発展
・身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
・夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
・勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
が挙げられています。
課題だけに注目すると難しそうですが、発達を促進する具体的なアクションやスキルをチェックするとわかりやすいかもしれません。例えば、小学校の低学年の子どもたちが「係や当番の活動に取り組み、それらの大切さが分かる」というのは、情報活用能力の育成が期待されます。必然的に自己や他者、身のまわりの仕事や環境に目を向けるようになったり、活動の大切さを知って自分なりに活動の目標を作って努力したりと、課題クリアにつながりそうです。
中学校のキャリア教育
次に中学校。中学校は、職業的(進路)発達の段階において「現実的探索と暫定的選択の時期」にあります。中学校の段階で達成しておきたい職業的(進路)発達課題としては、
・肯定的自己理解と自己有用感の獲得
・趣味・関心等に基づく職業観・勤労観の形成
・進路計画の立案と暫定的選択
・生き方や進路に関する現実的探索
が挙げられています。
小学校よりもレベルが上がり、現実や自分自身の現状に「向き合うこと」や自分の道の「選択」が重視されるものですね。中学校のキャリア教育は、小学校のキャリア教育で形成された基盤が必要不可欠です。
高等学校のキャリア教育
最後に、高等学校のキャリア教育について。高等学校は、職業的(進路)発達の段階において「現実的探索・試行と社会的移行準備の時期」にあります。高等学校の段階で達成しておきたい職業的(進路)発達課題としては、
・自己理解の深化と自己受容
・選択基準としての職業観・勤労観の確立
・将来設計の立案と社会的移行の準備
・進路の現実吟味と試行的参加
が挙げられています。
高等学校の段階になると、社会に出ることや具体的で現実味のある将来設計などが重視されます。もちろん、小学校・中学校と段階を踏んでこそ実現されるハイレベルなものとなっています。
先ほどもお話しましたが、日本における「キャリア教育」という言葉は公的に使われ始めたのが約21年前と、比較的新しいもの。新しいものだからこそ、「キャリア教育」にはまだまだ課題があります。文部科学省が挙げている課題を簡単にまとめてみると…
・職場体験活動だけでキャリア教育した気になっていないか
・次に進学する学校のことばかりで、社会に出ることを考えた指導になっているか
・既存の組織のこれまでの在り方を前提にした指導になっていないか
・将来の夢を描くばかりで、現実味のある指導がされているか
では、こういった課題を解決するために、文部科学省はどのように動いているのでしょう?
以上のような課題を乗り越えてキャリア教育を効果的なものにするために、文部科学省が重要と考えたのが「教育課程全体を通じて必要な資質・能力の育成を図っていく取組」。
つまり、「子どもたちが社会に出るまで、教育全体でつながりのあるキャリア教育をして必要なものを身につけさせようね!」というわけです。その取組の1つとして2020年4月から全国の小中高等学校でスタートしたのが「キャリア・パスポート」の活用です。
【キャリア・パスポートとは】
児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。(「キャリア・パスポート」の目的と定義(省内インナー会議による))
また、このキャリア・パスポートは、生徒の記述内容をもとに教師が対話的に指導に関わることが求められています。
確かに筆者も思い起こせば、小学校・中学校・高等学校と学校段階を超えて自分を振り返る機会はあまりなかったように思います。進学するごとに、キャリア教育も含め何もかもリセットされる感覚だったかもしれません。
キャリア・パスポートによって、子どもたち自身が定期的に自分のことを振り返るいい機会ができるでしょう。また、先生方も各々のポートフォリオを通して、個人に合った、そして学校段階を超えた継続的な指導ができるようになるかもしれません。
今回は、文部科学省のキャリア教育についてお話しました。キャリアというと、高校生や大学生などある程度成長してから考えるイメージがありますが、小中学生の頃から継続的で連係プレーのキャリア教育が必要とされています。今後の流れも定期的にチェックしていきたいですね!
参考資料
・文部科学省,2013,「第1章キャリア教育の必要性と意義」
・国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター,2018,「『キャリア教育』資料集- 文部科学省・国立教育政策研究所 -研究・報告書・手引編 平成29年度版」