子どもの「生きる力」を育むため、PBL授業の活用が求められています。
ただ、PBL授業という言葉の意味や、授業で具体的に何をしたらよいのか、今ひとつよく分からない方もいるでしょう。
今回は、PBL授業とは何かを解説し、具体的な3つの事例をもとにして、授業全体の流れを紹介します。
教師が教科書の内容を教え込む従来の指導法に比べ、PBL授業は教師の負担が増えますが、子どもの理解を深めるためには非常に効果的です。
目次
PBLは、「問題解決学習」「課題解決型学習」などと訳される学習理論です。子どもが自分から課題を見つけ、課題を解決する過程で知識を身に付けつつ、課題を解決できる力を養うことを目的としています。
教師に求められるのは、知識を一方的に暗記させる指導ではなく、子どもの関心や自発性を引き出してサポートする指導です。子どもの「なぜ?」を引き出し、グループでの活発な話し合いを促せる授業づくりが求められます。
PBL授業は、文部科学省の推進しているアクティブラーニングと深いつながりがあります。アクティブラーニングのねらいは、主体的・対話的に学習によって深い学びを実現し、生涯にわたってアクティブ(能動的)に学び続けるようにすることです。
アクティブラーニングの方法の例として、問題解決学習やグループワークが挙げられています。変化の激しい現代社会を生き抜くためには、自分から課題を見つけて課題を解決する力が必要なので、PBL授業の必要性が高まっているのです。
PBL授業は、おおむねこのような流れをとっています。
“・問題の認識
・情報の収集と分析
・方策の決定
・実行”
引用:「問題解決能力」育成のためのガイドブック(神奈川県立総合教育センター)
問題の認識
「どうしてうまくいかないのだろう」
「このままでは困るなぁ」
このような気持ちを、子どもが持つところから始まります。子どもの実態を把握し、何に興味・関心を持つのかを想定したうえで、どのように問題に出会わせるかを検討する必要があります。
情報の収集・分析
これまでの情報を整理して、問題点を洗い出すプロセスです。
他の情報を収集して分析しつつ、グループでの話し合いをもとに問題点を明確にします。情報収集の仕方やグループ内でのコミュニケーションの取り方など、日頃からの指導が重要です。
方策の決定
既習の知識や経験をもとにしつつ、複数の情報や新たな考えを組み合わせ、解決に向けた具体的な方法を検討します。
教師は先取りして教えるのではなく、子どもたち自身で問題解決できるように促すのが大切です。子どもの考えた方法は最大限尊重し、実行できるように整えるのが望ましいです。
実行
グループで立てた計画をもとに、問題の解決策を実行します。
日頃から発表の場を設けて発表形式を習慣化させれば、グループでの活動結果がクラス全体に反映されやすくなります。
活動後は問題解決できたか、方策は適切だったかを評価し、一連の活動を見直すことで理解がさらに深まるでしょう。
小学3年・社会科「スーパーマーケットではたらく人」
参考:「問題解決能力」育成のためのガイドブック(神奈川県立総合教育センター)
この単元では、スーパーマーケットで働く人々の仕事をとらえ、販売者の工夫や消費者の選択行動を理解させようとしています。
問題の認識
子ども自身の経験をもとに、スーパーマーケットのつくりや工夫を予想し、見学計画を立てます。
その後、実際に見学してリサーチを行い、気になったことや分からなかったことをグループ内で確認。
教師は子どものつぶやきや、ゆさぶりにつながる意見を積極的に取り上げ、子どもの興味を引き出します。
情報の収集と分析
スーパーマーケット見学で得た情報をグループで出し合って、整理・分析します。
「同じ品物でも値段が違うのはなぜか」「安いものだけでなく、他の品物も置いているのはなぜか」など、気になった問題点を明確にするプロセスです。
方策の決定
問題点を絞りこみ、グループで何を解決するかを明確にして、どのようにすれば解決できるかを考えます。
次回の見学で、「何を調べるのか、店員にどう質問すべきか」を整理させるのが大切です。
実行
再度スーパーマーケットに見学に行き、問題を解決します。
中学3年・数学「相似な図形」
参考:課題を解決するために必要な資質・能力を育成する授業に関する研究(鹿児島県総合教育センター教科教育研修課)
「木に触れずに、木にできた鳥の巣の高さを調べる方法」という問題について、相似の考え方を活用させることがねらいです。
問題の認識
鳥の巣に近付けないため高さが測定できない、という課題を把握します。
情報の収集と分析
巣の高さを求めるために必要な情報を集めるプロセスです。
三角形の相似を利用することに気付かせつつ、どのような情報が必要か、グループで意見を出し合います。
方策の決定
底辺の長さや角度の調べ方を話し合います。
「分度器を用いて目標物までの角度を測る」「鏡を使って入射角や反射角を利用する」など、グループごとに方策は異なるため、事前準備が必要です。
実行
計測を実際に行い、数値をもとに巣の高さを求めます。
グループごとに方策を発表し、高さを調べる方法や相似の有用性について、理解を深めます。
高校1年・家庭「日常食の調理」
参考:高等学校「課題発見・解決学習」実践事例集(広島県教育委員会)
調理の計画や実習をもとに、見通しを持って調理を進める力を身につけさせるのがねらいです。
問題の認識
弁当作りの調理実習計画を立て、実際に調理実習を行います。
その後、調理実習時のVTRを観ながら、安全・衛生的で環境に配慮した作業ができていたのかを振り返ります。
情報の収集と分析
調理実習の振り返りをもとに、調理手順の改善方法をグループで考えるプロセスです。
調理台や流しの衛生面や、手早く作業を終わらせる方法など、グループごとに課題を明確にもたせます。
方策の決定
2回目の調理実習に向けて、具体的にどうすれば課題を解決できるかを考え、方策を決定します。
調理実習の流れや留意点について、グループ全員で共有させるのが大切です。
実行
2回目の調理実習を行います。
1回目の調理実習と比べて、何に意識を持って取り組んだかを振り返り、調理作業の見通しを立てることの大切さに気付かせます。
PBL授業を行うと、子どもの理解が深まりやすく、課題を解決できる力も養えます。
PBL授業の際は、子どもに「どうすれば問題を解決できるだろう?」と思わせるような、興味を広げやすい課題を提示しましょう。課題を解決する過程を経て、子どもたちが考えた問題の解決策を実行し、記憶に深く残るような学びを体験させるのが大切です。
自ら課題を見つけて解決できる力を育むために、PBL授業を効果的に活用してください。
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