平成31年度の入学生から「総合的な探究の時間」が実施され始め、令和3年度より高校1年生から3年生までの全ての学年で「総合的な探究の時間」を実施することになりました。
教科書がある授業ではないので、どのように授業を展開していこうかと頭を悩ませている先生も多くいますよね。
この記事では、「総合的な探究の時間」の目標を確認し、実践事例とともに陥りやすい失敗事例について解説していきます。
目次
「総合的な探究の時間」の学習指導要領には「第1の目標」が以下のように明記されています。
第1 目標
学習指導要領
探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。
(2) 実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。
学習指導要領に明記された総合的な探究の時間の目標から、「実生活からの課題発見」、「主体的な課題設定」、「情報の整理・分析」、「まとめ・表現」の体験を通し、よりよい社会を実現する態度を養うことが求められていることがわかります。
つまりそれは、①生徒が自ら課題を設定し、②情報を整理し、③表現することが必要な『探究』の時間です。
この点を理解しつつ授業を展開していくことが、新しい学習指導要領では求められていますね。
総合的な探究の時間の目標はわかりましたよね。さて、ここで1つの疑問が湧いてくるかと思います。
「それで、結局どんな内容の研究課題に取り組ませればいいの?」
大枠は学習指導要領に明記されているものの、授業展開は現場の先生に任されているので、なにをすればいいのかと頭を悩ませている先生も多くいます。そんな疑問を解消するために、実践事例を紹介していきます。
神奈川県立横浜清陵高等学校では、各生徒が課題を設定→探究の手法を学ぶ→探究活動→発表→まとめる、といった流れの元で展開しています。1年間を通して計画しているので総合的な探究の時間の担当をしている先生が「今週はなにをしようかな」と迷うようなこともありません。
それでは、1年間の計画とともにこの実践例が優れている点を紹介していきます。
【課題設定】1〜4時間
ワークショップを通して8領域(国際理解、情報社会、科学技術、伝統文化、自然環境・資源、健康・医療、教育・福祉、防災・復興)の中から各自が選択し、その中から各自が問を見出し、計画を立案する。
【探究活動の手法】5〜6時間
探究活動を行うにあたり、その方法を具体事例から学習し、課題研究の見通しを持つ。
【探究活動】7〜15時間
各自で情報収集、整理分析、発表準備に取り組む。その際にはインターネットやインタビュー、実験、フィールドワークなどを実施する。
中間報告を設け、プレゼンテーションスライドをつくる。
【成果発表】16〜19時間
自身の探究活動を発表する
【まとめ】20〜21時間
自身の探究活動の振り返り、まとめ
神奈川県立横浜清陵高等学校の取り組みは、生徒が課題を8領域から選べることが大きな特色です。8領域について理解を深めるためにワークショップを開き、生徒自身が自分の興味のある分野を選択することで、その後の主体的な活動に繋がっていきます。
生徒はテーマを「自由に決めていいよ」と伝えられると、設定することが逆に難しく感じるケースが多く、8分野の中から選択し、そこから自分の興味や疑問を設定する手法はとても参考になりますね。
総合的な探究の時間が始まってまだ数年のため、各学校でもそのノウハウが蓄積されておらず、多くの学校で陥いりやすい失敗パターンがあります。最後に、その失敗事例と原因を紹介します。
1.生徒が主体的にテーマを選択していない
学習指導要領の目標にも「主体的な課題設定」と明記されているように、自ら課題を設定することはとても重要です。そうでなければ、生徒は授業だから取り組むといった「やらされ感」を強くもち、興味がないテーマのために調べる動機をもてず、効果的ではない取り組みに陥りやすくなります。
例えば、多くの学校で1学年の大テーマは「SDGs」といったように、大テーマを学年全体で統一していますが、これでは生徒が主体的にテーマを選択したとは言えません。そもそもSDGsに興味がない生徒が、その分野から小テーマを決めることはとても難しいですよね。
先ほど紹介した横浜清陵高等学校の取り組みは、8領域から選択し、その中から自分が調べたいテーマを決めるような取り組みにしています。そうすることで、自分がより興味のある課題に取り組み、主体的なテーマ設定ができるように繋がっていくでしょう。
2.生徒がどのように取り組めばいいかわからない
生徒によっては、作業の見通しがもてず、どのように取り組んでいいのかがわからない状況に陥ってしまうケースが見られます。あるいは、ただスマホを使用してインターネットに書かれていることだけをまとめるケースもあるでしょう。
横浜清陵高等学校では探究の手法を学習する時間を2時間とっています。どのように探究を進めていくのかの見通しをもち、今後どのような時間配分で作業を進めていけばいいのかを考えさせる時間をもつことは、とても重要です。
スマホで調べてもいいし、フィールドワークで実験してもいいし、各分野の講師を招いて講演を計画してもいい。取り組み方を伝えてあげることで生徒の学習効果は大きく変わっていくので、時間をとって探究の手法を伝えるといいでしょう。
3.テーマや発表の創意工夫がない
総合的な探究の時間では、テーマや発表の方法に制限はありません。生徒が主体的にテーマを見つけ、発表の方法を模索していくことがとても重要です。
そのためには、学校でよく行うようなテーマや手法だけを紹介しても、「またこういう取り組みか」と、生徒のマンネリ意識に繋がります。
それを改善するためには、生徒が身近な題材や、社会で行われている発表の手法を紹介することも効果的です。例えば、現在ならYoutubeやプログラミングやSNSをテーマにしてもいいでしょう。
各校の学校説明会用にある紹介動画を見せて「よりよい動画を作成しよう」というテーマで動画を作成して発表してもいいし、SNSを使ってバズらせる方法を実験させてもいいのです。スライド資料を作成し、その資料を読みながら発表するだけではない方法を生徒に伝えることで、生徒がより創意工夫し、豊かな発表に繋がっていくでしょう。
以上、「総合的な探究の時間」における実践事例と、陥りやすい失敗事例について解説してきました。
総合的な探究の時間はまだ始まったばかりで、これから試行錯誤しながら、よりよい取り組みが発表されていくかと思います。「実生活からの課題発見」、「主体的な課題設定」、「情報の整理・分析」、「まとめ・表現」の体験を通し、よりよい社会を実現する態度を生徒に養っていってください。
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