前回はPBLの学習効果やメリットについてお知らせしました。
ただ、PBLには実施する上で多くの課題が存在します。今回はPBLを実施するにあたって気をつけなければならないポイントをお知らせします。
目次
PBLはテーマ設定が難しい
PBLを始めるにあたり、まず直面する壁がこれです。「何のテーマに取り組ませるべきなのか」。テーマがないと、PBLを始めることすら出来ませんからね・・・。
PBLや探究学習はよく「答えのない問い」という表現をされますが、PBLのテーマ設定にも答えはありません。従って、何らかの意図、コンセプトを持って設定することになります。
ただ最近はPBLとして活用できるコンテスト系の企画も多数あります。まずはそうしたコンテストに学校として取り組んでみてはいかがでしょうか。
PBLはテーマ設定のポイント
PBLのテーマを先生方が自ら設定される場合はPBLを通して何を学ばせたいかを設定し、そこから逆算すると良いでしょう。
その際に注意して考えるべきなのは、技能と興味関心分野をしっかりと分けて設定する事です。調査する力や論理的思考力、マネジメント能力や資料作成能力、プレゼンスキルといった”技能”はPBLがちゃんと機能すればどんなテーマであってもある程度は体験させることが期待できるでしょう。
そうではなくて、テーマ設定の際に気をつけるのは「興味関心分野」です。地域課題、医療、少子高齢化、環境汚染など、主体的な探究学習によって生徒が興味を持ってほしい分野を絞り込むと良いでしょう。
そしてなるべく抽象度の高いテーマをお勧めします。テーマが具体的であればあるほど、生徒の探究の奥深さは浅くなってしまうからです。
ただし、より実践的で具体的なアウトプットを出させたい場合はある程度具体的なテーマ設定の方が良いでしょう。この場合はより実現度の高い、具体的なアイデアが出てくることが期待できますが、生徒の実力(情報収集力や仮説構築、企画、アウトプット等)がまだ高くない場合は難易度が高くなってしまいます。
PBLやアクティブラーニング自体が初めての生徒には、抽象度が高いテーマを与えて、自由な発想で探究自体を楽しんでもらえる事を狙うのが良いのではないかと思います。
抽象度の高いテーマ設定の例
これから深刻化する高齢化社会において求められるビジネスプランを考えよう
抽象度の低いテーマ設定の例
これから深刻化する高齢化社会において、地方都市の都市インフラを維持していく為のビジネスプランを考えよう
PBLは生徒のモチベーション喚起&維持が難しい
生徒のモチベーション喚起は、PBLに取り組む先生の最大の悩みとも言えるかもしれません。
PBLは、生徒が主体的に参加してくれないとその学習効果は高まりません。ただ、生徒からすると通常の授業以上に難しかったり「面倒だ」と感じるケースも多いのが事実。
中にはPBLをきっかけに学習意欲が高まる子もいますが、残念ながら全員がそうとは限らないのです。
この問題は絶対回避できる方法はありません。ただ、一人でも多くの生徒が意欲的に参加してもらえるように工夫する事は可能です。
基本といえば基本ですが、PBLにおいてチームビルディングは必須です。チームビルディングをするのとしないのとでは、その後のパフォーマンスに大きな差が生まれてくるでしょう。
チームビルディングの方法についてはまた別記事でまとめる予定です。
PBLは個人ではなくチームで行います。生徒を指導する際にポイントになるのはどのようなチーム編成にするか、でしょう。チーム編成の方法もまた別記事でまとめていきます。
PBLは評価の方法が難しい
PBL最後の課題は評価手法。そもそもが答えがないので、生徒のアウトプットについてはどのように評価をすればいいかわからない先生方も多いと思います。少なくとも定量的な評価をしていくのは難しいでしょう。
またPBLは基本的にチームで取り組む為、チーム単位での評価はともかく、その中で個人個人がどのように動いているかをチェックするのは難しいものです。
また積極的な姿勢とアウトプットのクオリティが必ずしも比例しないのも難しいポイント。また熱心なチームであればあるほど、先生の見ていないところ(オンラインチャットなど)で取り組んでいたりするので、そうなるともう途中のプロセスはわからないですよね。
各教育現場で試行錯誤がなされていますが、いくつか具体的な事例をご紹介します。
社会人基礎力についてはご存知の方も多いと思います。社会人基礎力12個の能力因子はPBLの学習効果を測る一つの目安になるでしょう。
社会人基礎力を因子ごとに10点満点で自己評価で採点させるのです。
ポイントは”自己評価”である点。生徒は自分の能力について意外なほど過小or過大評価をしているものです。正しく自己認識ができていないのです。
PBLを実施する前と実施した後の2回、生徒に自己評価をさせてみてください。私が活用している評価シートはメルマガ登録をいただいた先生方に無料でお送りする予定です。ご活用ください。
そして実施前と実施後の自己評価を比較して生徒本人にその差を考えさせましょう。事前と事後で大きく数字が変動する因子があるはずです。数値が上がったから良い、というものではなく、「意外と出来た」「意外とできなかった」が発見できれば良いでしょう。PBLの振り返りの強力な参考資料となるはずです。
参加した生徒同士の相互評価も有効です。チームメンバー同士で相互に評価させるのです。評価指標は上記の社会人基礎力でも構いませんし、数値ではなくコメントでも良いでしょう。
ただしこちらは少々刺激的な結果になることもあります。生徒からしても他のチームメンバーが自分をどのように評価していたのか知るわけで、見たいような見たくないような、少々怖い感覚があるかもしれません。
以前見学させていただいたPBLの大学の授業でこんな光景がありました。それは相互評価ではなかったのですが、参加学生がPBLの振り返りをそれぞれレポートで出させて、その中からいくつかのコメントを授業中に先生が読み上げたのです。
そこで取り上げられたコメントの一つがなかなか刺激でした。要約すると、
学び自体はたくさんあったけど、チームの中に全く協力的じゃない人がいた。事前に設定していた調べ物はしてこないしミーティングにもバイトなどを理由に欠席する。他の人達が苦労しながらやっているのにその人だけ何もせず、同じ評価を受けるのはおかしいと思う。
このコメントを先生が授業中に読み上げているとき、クラス内がシーンとしました。どうしてこのコメントを取り上げたのか、僕は先生に授業後に聞いてみました。すると先生は、
あれでいいんです。サボっていた学生は自分のことだと気づいたはず。彼らは一時的な弱さに甘えてしまったのだと思いますが、自分のそうした行動が他のチームメイトにどういう影響を及ぼすのかを知った方がいい。何となく見過ごされるとそれが癖になるから。
なるほどなあと思いました。人間というのは行動特性というものがあります。そして一度サボる行為に慣れてしまうとそれが続き、特性になってしまいます。サボった学生は「まあいっか」程度の軽い気持ちでサボっていたのだと思いますが、その行為によって相手がどう感じていたかを生々しい言葉で聞かせてあげる。
これはなかなかのショック療法だなあと思いました。この先生が上手なのは、先生自身が明るいパーソナリティでファシリテーションが上手なこと、そしてこの衝撃のショック療法の後に、チームワークビルディングの講義を用意していることです。PBLでチームワークの難しさを体感した後にチームワークビルディングを学ぶので、吸収力が高まるのだと先生はおっしゃっていました。
課題も多いが、PBLは効果的
いかがでしたでしょうか。実際にPBLをやったことがある先生なら「わかる・・・」となると思います。なかなか骨が折れるのがPBLですが、それでも実施することの効果は大きい。
senpaitalk.comでは別記事でもPBLについて書いていますので、是非チェックしてみてくださいね。
コメントを残す