高校キャリア教育の現状

高校のキャリア教育は、就職や大学進学など、自分の進路を切り拓いていく高校生にとってとても重要です。キャリア教育が十分に行われていないと、高校生たちは不安なまま卒業して、社会に出ていかなければならないという可能性がありますよね。キャリア教育の重要性は、生徒も先生も感じているはずです。しかし、実際は教員対象の研修が実施されていないなど、キャリア教育の実践で困っている先生も多いのではないでしょうか。今回は、高校におけるキャリア教育の現状や課題、課題解決のための対策を紹介します。この記事を読んで、少しでも理解が深まったり、貴校のキャリア教育について考えたりするきっかけになると幸いです。

高校でのキャリア教育の目的

中央教育審議会の答申によると、キャリア教育は以下のように定義されています。

“一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育”

つまり、学校では子どもたちが自分らしく生きていくため、また、自分の願いを実現させるために必要な能力や態度を養う必要があるということです。

中央教育審議会の答申において、高校は「現実的探索・試行と社会的移行準備の時期」と設定され、次のような目標が掲げられています。
・自己理解の深化と自己受容
・選択基準としての職業観・勤労観の確立
・将来設計の立案と社会的移行の準備
・進路の現実吟味と試行的参加

高校では、生徒たちが今まで以上に自分についての理解を深め、働くことや進学することについてより現実的に考え、自らの将来に関わる体験に取り組むことが求められています。

高校のキャリア教育の現状

次に、高校におけるキャリア教育の現状を紹介します。
国立教育政策研究所の調査によると、多くの高校では、キャリア教育の計画の作成や、キャリア教育担当者の配置は行われているということがわかっています。

高校キャリア教育の現状①:全体年間計画の作成

国立教育政策研究所の「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」によると、7割の高校ではキャリア教育の全体計画が作成されており、年間指導計画については8割の学校で作られています。この計画に基づいて、キャリア教育の実践の定着が進んでいます。

高校キャリア教育の現状②:キャリア教育担当者の配置

年間計画や指導計画と同時に進んでいるのが、キャリア教育担当者の配置です。国立教育研究所の調査で、ほぼ全ての高校にキャリア教育の担当者が配置されていることがわかっています。さらに、キャリア教育担当者の在任期間は、2〜3年間である学校が多く、1人の教員が責任を持ってキャリア担当として、キャリア教育に携われる環境が整っています。

キャリア教育担当者

高校キャリア教育の現状における課題

多くの高校で、全体計画が作成され、担当者が配置されているという現状から、キャリア教育が重要視されているということがわかります。
しかし、国立教育政策研究所の調査では、高校が抱えるキャリア教育の課題も明らかになっています。ここからは、高校が現時点で抱えるキャリア教育の課題を3つ紹介します。

高校キャリア教育の課題①:就業体験の時間が確保されていない

1つ目の課題は、就業体験(インターンシップ)の時間が確保されていないことです。就業体験は、進路選択を目の前に迫られた高校生にとって、自分の働き方や生き方を考えるきっかけになる貴重な体験です。生徒は就業体験を通して、自己理解を深めたり、将来設計をしたり、実際に体験してみて自分の計画は正しいのかを吟味することができます。結果として、高校のキャリア教育の目標の達成にもつながります。
ほとんどの高校では、キャリア教育の全体計画の中に、体験的な学習が位置付けられています。しかし、実際は「就業体験に当てる時間」が「0日」という高校が多く、就業体験の時間を確保できていないというのが現状です。
国立教育政策研究所が、卒業生にインタビューをしたところ、41.4%が「将来の生き方や進路について考えるため、就業体験を実施してほしかった」と回答しています。この結果から、就業体験の時間の確保が、高校のキャリア教育における課題の1つだということがわかります。

高校キャリア教育の課題②:生徒が求める授業との差

現在高校で実施されているキャリア教育の授業と、生徒が求める授業に差があるというのが2つ目の課題です。地域交流や国際交流など、特色のあるキャリア教育が行われている高校は少なくありません。しかし、国立教育政策研究所のアンケート結果によると、キャリア教育の授業は、充実と改善が求められていることがわかります。
アンケートの中の「将来の生き方や進路について考えるため、指導してほしかったこと」という項目に対して、
・自分の個性や適性を考える学習
・社会人、職業人としての常識やマナー
・将来起こり得る人生上の諸リスクへの対応
これらの回答を選んだ生徒が多く、実際の授業と自分が求める授業に差があることがわかります。
キャリア教育の授業は、生徒の将来を長期的に見通して、充実・改善を図る必要がありますね。

高校キャリア教育の課題③:キャリア教育についての情報不足

高校でのキャリア教育に欠かせないのが、教員がキャリア教育についての情報や知識を十分に持っていることですよね。キャリア教育の推進が求められていることは理解していますが、キャリア教育に関する情報を十分に得られていない先生が多いのが現状です。
実際に、キャリア教育に関する情報や資料を読んだことのない先生は34.7%、キャリア教育についての校内研修に「参加したことがない」という先生が47.9%であることが、国立教育政策研究所の調査で明らかになっています。日頃の授業や、校務分掌、部活動などの業務で忙しい中、キャリア教育について自主的に学ぶ時間を確保するのは難しいですよね。キャリア教育の重要性が高まる中、先生方がいかにキャリア教育の情報を負担なく得て、授業に活かせるかが3つ目の課題です。

現状における課題

高校キャリア教育の課題を解決するには

最後に、高校でのキャリア教育の課題を解決する方法を3つ紹介します。
高校における現状から明らかになった課題を改善することで、高校のキャリア教育がより充実していきます。

高校キャリア教育の改善案①:就業体験を充実させる

まずは、高校での就業体験を充実させることです。アンケート結果からも、高校生が就業体験を求めていることがわかりましたよね。高校で就業体験が実施され、生徒たちが実際に働くことや人との関わりを体験することで、自分の将来について、より深く考えるきっかけになります。高校生が求める力である「社会人、職業人としてのマナー」も、就業体験を通して学べることが多いです。多くの高校では、全体計画の中に就業体験が位置付けられているので、体験を実施できるように計画を立て、実践することで、キャリア教育がより充実します。生徒たちも就業体験を通して、自分自身や将来の選択に今よりもっと自信が持てるはずです。

キャリア教育の改善案②:情報提供や研修の機会の拡充

キャリア教育についての情報提供や研修機会の拡充も、高校のキャリア教育を改善するために欠かせません。キャリア教育が重要視され、推進されているにもかかわらず、教員のキャリア教育についての情報や知識が不足していたら、よりよいキャリア教育の実施は難しいですよね。しかし、実際は、先生方は日常業務が忙しく、余裕がない場合が多いです。そのため、学校の校内研修として、しっかりと時間をとって、学校全体でキャリア教育について学ぶ機会を設けることが大切です。また、校外で行われるキャリア教育の研修に参加しやすくなるよう、定期的な情報提供を行うなど先生方が余裕を持って働くことができる環境づくりも必要です。

高校キャリア教育の改善案③:授業内容の充実・改善

就業体験の充実に加えて、キャリア教育の授業内容の改善も必要な場合があります。先ほども紹介した高校生へのアンケートでもわかった「指導してほしかった項目」を参考にすると、授業改善のヒントが見えてきます。例えば、自己理解を深められる授業を増やしたり、外部講師を招いて社会人のマナー講座を実施したりすることで、生徒の進路に対する思いが明確になり、進路実現の意欲向上にもつながります。また、将来のリスクへの対応として、離職や失業の際にどうすればよいのかを事前に学んでおくことで、漠然とした不安も解消することができま。今の自分をより理解する機会を増やし、これから先の未来のことなどを考えられる授業を作ることで、生徒にとって充実した時間になること間違いなしです。

充実・改善

高校生が自信を持って卒業できるキャリア教育を

今回は、高校におけるキャリア教育の現状や課題、そして課題に対する解決策を紹介しました。キャリア教育が重要視され、推進されている中でも、なかなか思い通りの授業ができていない現状があります。高校生のアンケート結果や、貴校の生徒の実態に合わせてキャリア教育の授業を設計することで、キャリアの授業がより充実します。そのキャリア教育の授業が、高校生が自信を持って将来に進んでいくためのきっかけになるはずです。この記事が、少しでも貴校のキャリア教育授業の充実に、役に立つと嬉しいです!

◎参考資料
キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査
文部科学省 キャリア教育
高校におけるキャリア教育の現状
高校の進路指導・キャリア教育に関する調査